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第152話 同じものを見ても、同じ答えにはなりません

Auteur: 八月 猫
last update Date de publication: 2026-10-07 09:00:58

 東都アセットから修正案が届いたのは、それから一週間後だった。

 三年後の稼働率九十二%という数字は消えている。

 代わりに最初のページへ大きく書かれていたのは、この施設を今後どんな場所にするのかという方針だった。

 一階は、今ある日常利用を基盤として維持する。

 二階以上は店舗数を無理に埋めることを優先せず、周辺住民や子育て世代が目的を持って訪れる区画へ再構成する。

 既存店舗についても、営業年数ではなく、来館動機や施設全体への効果、継続可能な条件を含めて個別に判断する。

「かなり変わりましたね」

「ああ。少なくとも、前より何をしたいのかは分かる」

 帝人さんは修正案をめくりながら答えた。

 想定稼働率は、三年後八十七%。

 最初より下がっている。

 でも、私は前の九十二%よりずっと現実的に感じた。

「数字が下がったのに、こっちの方が良く見えます」

「前の数字は全部うまくいく前提だったからな。今回は

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  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第152話 同じものを見ても、同じ答えにはなりません

     東都アセットから修正案が届いたのは、それから一週間後だった。 三年後の稼働率九十二%という数字は消えている。 代わりに最初のページへ大きく書かれていたのは、この施設を今後どんな場所にするのかという方針だった。 一階は、今ある日常利用を基盤として維持する。 二階以上は店舗数を無理に埋めることを優先せず、周辺住民や子育て世代が目的を持って訪れる区画へ再構成する。 既存店舗についても、営業年数ではなく、来館動機や施設全体への効果、継続可能な条件を含めて個別に判断する。「かなり変わりましたね」「ああ。少なくとも、前より何をしたいのかは分かる」 帝人さんは修正案をめくりながら答えた。 想定稼働率は、三年後八十七%。 最初より下がっている。 でも、私は前の九十二%よりずっと現実的に感じた。「数字が下がったのに、こっちの方が良く見えます」「前の数字は全部うまくいく前提だったからな。今回は撤退する店舗も、誘致できない区画も最初から織り込んでいる」 帝人さんが収支計画を指す。「その代わり、上階の一部を無理に細かく区切らず、用途変更する案が入った。稼働率だけなら下がるが、投資額と維持費まで含めれば利益はこっちの方が安定する」「空いてる場所を全部お店で埋めなくてもいいんですね」「ああ。必要なのは区画を埋めることじゃない。施設全体を使われる状態にすることだ」 私は別のページを見る。 和菓子店は継続候補になっていた。 ただし、単純な賃料優遇ではない。 一定期間の賃料条件を調整し、その代わりに催事や地域向け企画への参加を組み込む案になっている。 一方で、長く営業していた婦人服店については、契約満了を前提に別業態を誘致する方針だった。「ちゃんと分けましたね」「小春が気にしていたところか」「はい。『昔からある店』で一括りになってないなって」 残すものと変えるもの。 

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第151話 目標は一度捨てます

     現地視察から数日後。 東都アセットとの打ち合わせが、もう一度開かれた。 今回は前回より人数が少ない。 宮坂さんと事業責任者、それから現地運営会社の担当者。こちらも帝人さんと私、それに必要な担当者だけだった。 机の上には、現地視察後に追加された資料が並んでいる。 階ごとの来館傾向。 年代別の利用状況。 既存テナントの継続意向。 撤退理由。 周辺競合との比較。 数字は増えた。 でも。 帝人さんは資料を開いてしばらくしたあと、最初にこう言った。「三年後九十二%という目標は、一度捨てる」 東都側の空気が止まった。 事業責任者がすぐに口を開く。「目標値そのものを、ですか?」「ああ。数字が悪いと言っているわけじゃない。置き方が逆だと言っている」 帝人さんは資料の一枚を手前へ引いた。「今の計画は、三年後に稼働率九十二%まで戻すという結論が先にある。そのために既存客を維持し、若年層を呼び戻し、既存店舗も残し、新規テナントも入れることになっている。だが現地を見た限り、その全部を同時に取れる前提には無理がある」 誰も口を挟まない。 帝人さんはそのまま続けた。「一階は日常利用で機能している。上階は目的がなければ人が上がらない。若年層は施設全体から完全に消えているわけではなく、一階だけ使って帰る客もいる。既存店舗についても、残してほしいという声がある店ほど、再開発後の条件では残れない可能性がある。一方で、長く営業しているだけで将来も残す理由があるとは限らない」 私は隣で聞きながら、数日前に現地で見た景色を思い出していた。 賑わう一階。 静かな二階。 空いた区画。 残してほしいと言われながら、賃料次第では撤退する店。 長く続いているのに、客がほとんど入らない店。 資料の中では一つの施設だったものが、実際にはいくつもの違う状態に分

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第150話 古いものを全部残すわけじゃありません

     アンケートで名前の挙がっていた店舗を見たあと、私たちは再び二階へ上がった。 ここには一階ほど「残してほしい」という声の多い店はない。 その代わり、開業当初から営業を続けている店舗がいくつか残っていた。「東都の資料だと、この辺も『施設の歴史を象徴する既存店舗』になってましたよね」「ああ。ただし、売上は弱い」 帝人さんが視線を向けた先には、婦人服を扱う小さな店がある。 商品はきれいに並べられ、店員さんもいる。 でも、客はいなかった。 私たちは少し離れた場所から様子を見る。 五分。 十分。 何人か店の前を通ったけれど、中へ入る人はいない。「たまたまですかね」「それを判断するには短すぎる。ただ、売上推移を見る限り一時的な話ではない」 帝人さんが持ってきた資料によれば、ここ数年は毎年少しずつ売上が落ちている。 それでも営業を続けられているのは、長期契約で賃料が低く抑えられているかららしい。「再開発後も残す候補に入っている」「長く営業してるから?」「東都の説明ではな。地域との継続性を示す店として残したいらしい」 私はもう一度店を見る。 長く続いてきたこと自体には意味があると思う。 ここで服を買った人もいるだろうし、店員さんと顔なじみになった人だっているかもしれない。 でも。 前の和菓子店とは、何かが違う。「帝人さん。ここ、残さなくてもいいんじゃないですか?」 帝人さんがこちらを見た。「理由は?」「今のところ、残してほしいって声が特に多いわけじゃないんですよね。売上も下がっていて、ここを目的に来る人も多くない。だったら、長くあるっていう理由だけで残す必要はない気がします」「人の思い出は?」「あると思います。でも、思い出があることと、これからも同じ店が必要なことは別じゃないですか?」 口にしてから。

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第149話 残したい店ほど残れません

     施設をもう一度回りながら、私は利用者アンケートの内容を思い出していた。 残してほしい店舗の上位に入っていたのは、昔から営業している店が多い。 和菓子店。 惣菜店。 小さな書店。 どれも大型チェーンではなく、この施設と一緒に長く続いてきた店だ。「帝人さん。せっかくだから、アンケートで名前が挙がってた店も見ません?」「ああ。俺もそのつもりだった」 向かったのは、一階の端にある和菓子店だった。 派手な店構えではないけれど、客は途切れていない。 年配の人だけではなく、手土産を選んでいるらしい会社員や、子供を連れた人もいる。「ここ、普通に人気ありますね」「売上資料でも一階では上位だ」 だったら。 残したいという声が多いのも納得できる。 私たちはしばらく店の様子を見たあと、邪魔にならない時間を選んで店主らしい男性へ声をかけた。 最初は普通の客として話していたけれど、途中で帝人さんのことに気づかれたらしい。「まさか皇社長とは思いませんでした」「今日は視察で来ている。ただ、正式な交渉ではない。答えにくいことは答えなくていい」 帝人さんがそう前置きすると、店主は少しだけ緊張を解いた。「この施設、再開発の話が出ていますよね。お店はその後も続ける予定なんですか?」 私が聞くと、店主はすぐには答えなかった。「続けられるなら、続けたいとは思っています」 その言い方が引っかかった。「続けられるなら?」「今の条件なら何とかやれます。でも、改装後に賃料が上がるって話が出てましてね。まだ正式な数字じゃないですけど、今の売上だと厳しいかもしれません」 私は帝人さんを見る。 帝人さんの表情は変わらない。「どの程度上がれば撤退を考える?」「一割ならまだ何とか。でも二割を超えると、正直難しいですね。改装中の休業もありますし、その間の売上もなくな

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第148話 社長とは呼びません

     施設内をもう少し見て回ったあと、私たちは一階の休憩スペースへ戻った。 ちょうどそこへ、売り場の様子を確認していたらしい女性スタッフが通りかかる。 胸元の名札には、施設運営会社の名前が入っていた。「すみません、少しだけいいですか?」 私が声をかけると、女性は足を止めた。「はい。何でしょうか」「上の階についてなんですけど、普段から一階よりかなり人が少ないですか?」 いきなり再開発の話を出す必要はない。 普通の利用者として見ていて気になったことを聞く。「そうですね。特に平日は、一階で買い物だけ済ませて帰られる方が多いです。二階以上は目的のお店がある方が中心ですね」「若い方もやっぱり少ないですか?」「以前より減ったと思います。若い方は駅の向こう側の商業施設へ行かれることが多いみたいで」 やっぱり。 私は隣にいる帝人さんを見る。「帝人さん、駅の反対側にある施設って、競合資料に出てたところですよね?」「ああ。開業から七年で、飲食と衣料をかなり入れ替えている。若年層の流出先としては一番可能性が高い」 帝人さんがそのまま女性スタッフへ向き直る。「ここへ来なくなった客について、現場で何か聞くことはありますか。正式な調査ではなく、日常的な会話の範囲で構いません」 女性は少し驚いたようだった。 たぶん、急に質問の内容が細かくなったからだと思う。「そうですね……『上に行っても見るものがない』とは時々聞きます。それから、お子さんが大きくなってから来なくなったご家族も多いですね」「なるほど。ありがとうございます」 帝人さんが頷く。 そこから数分だけ話を聞き、私たちは礼を言って離れた。 少し歩いたところで。「あの」 後ろから声をかけられた。 さっきの女性スタッフだった。「はい?」「あの方って、もしかして……皇社長ですか?」

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第147話 来ない人には聞けません

     二階を一通り歩いたあと、私たちは三階へ上がった。 こちらは二階よりさらに人が少ない。 営業している店舗もあるけれど、通路の途中に空いた区画が混じり、そのたびに人の流れが途切れているように見えた。「一階と全然違いますね」「同じ施設とは思えないくらいだな」 帝人さんは周囲を見ながら、今度は図面を出さずに歩いている。 さっき私が言ったことをちゃんと守っているらしい。「帝人さん、あそこ」 私は通路の端にあるベンチを指した。 座っているのは年配の人が多い。 買い物袋を持った人。 休憩している人。 話をしている人。 でも、若い人の姿はほとんどない。「やっぱり少ないですね」「二十代、三十代が?」「はい。アンケートでも来館比率そのものが落ちてるって言ってましたけど、実際に見ると分かりやすいですね」 帝人さんが頷く。「一階にはいた。だが、上には来ていない」「ってことは、施設そのものに来てない人だけじゃなくて、来てても一階で帰ってる人もいるってことですよね」「ああ。来館者数だけ見れば客がいるように見えるが、館内全体を使っているとは限らない」 帝人さんは少し先にあるエスカレーターを見る。「問題は『来るか来ないか』だけじゃない。来た客がどこまで動くかも見ないと、施設の実態は分からない」 確かにそうだ。 一階で日用品だけ買って帰る人も、三階まで回る人も、来館者数では同じ一人として数えられる。 でも、売上やテナントへの影響はまるで違う。 私は手元のメモにそのことを書き込んだ。「だったら、前に見せてもらったアンケートって、やっぱり偏りますよね」「どういう意味だ」「館内で取ってるなら、今ここに来てる人の声しか聞けないじゃないですか。特に残してほしいって答える人は、今もこの施設を使ってる人ですよね」 帝人さんが少しだけ考

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